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審美眼。当時の芸術と技術の粋を集めた掌中の宇宙。この印籠は18世紀のもので実用されたものです。現在もてはやされる印籠は江戸後期から明治の作品で、経年によるヒビやひずみを避けるため、紙と漆で作られ、彫る工程が適さないので蒔絵・高蒔絵で完成された観賞用美術工芸品が主です。しかし、この印籠は柘植に素彫りした後に黒漆を塗って、その表面を研いで模様を出したり背景を作っています。そして正倉院にある大きな一枚の貝で飾られた琵琶を思い出させる、大きな螺鈿で阿吽雲龍を造形しています。螺鈿の表面を彫って金を沈めて描く沈金も行われています。元々虹を龍としていた時代もあることから、螺鈿の美しき虹彩は龍の象徴として相応しいですが、螺鈿でここまで大きく龍を表現した印籠を見たことがありません。雲には金漆で濃淡をつけたり、細かい象嵌で模様も入っており、吐く息が地に落ちて金になる故事も表されています。当時の技術の粋を集めて、一体何人の職人が携わり、誰のために作られたのでしょう。3段重ねで紐を通す箇所が隠し紐通しになっていて、印籠の下側に結び目など作らず、上側にのみ紐がでる仕組み。このような印籠は、まず目にできません。側面には永劫に続く念仏のように一糸乱れぬ高い集中力で細かい模様がつけられ、最上のものをと懸命に作られたのだと思われます。銘が好きなかたもいらっしゃると思いますが、献上無名(献上するのに、自らの名前を刻むことは失礼であったり、神聖なものに傷をつけることを避けたいと考える職工もいます)の作品であると思います。雲竜図は京都のお寺の天井に多く残されており、丸い図面に描かれています。龍は仏の悟りを多く降らせてくれると考えられており、この雲竜図の印籠は雷神の太鼓を模した丸い形で現されています。合わせられた根付は木魚であることから、高僧に献上された作品ではないかと想像しています。見る角度で様々な表情を見せる龍や雲は、まるで掌の中に宇宙を立ち出でさせるかのよう。別格の印籠で文化資料としても貴重です。直径約6cm。ロンドンの古物商から購入。写真は説明に含まれ、購入後の対応はいたしかねます。組紐は切れているため、京都の専門店から取り寄せた古代紫に交換しました。とても古いもので漆の剥がれが雲などにあると思われます。
※最後の一枚の写真は参考で、同じ18世紀木彫丸型の蟠竜図で、オランダに唯一有り約40万円です。
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